まぎらわしい漢字姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ87 斑と班 どちらも「まだら」

新聞漢字あれこれ87 斑と班 どちらも「まだら」

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 。どちらも常用漢字で「ハン」と読みますが、別字です。では「まだら」と訓読みするとしたらどちらの字になるでしょうか。

 一般に「まだら」と読ませるのはです。部首は「文」になり模様を表します。とはいえ、漢和辞典を見るとにも「まだら」の意味が書かれており、実にややこしいところがあります。例えば、「まだらめ」と読む姓は「目」も「目」もあり、間違いやすいものです。

 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所事故時の内閣府原子力安全委員会の委員長だった目春樹氏は、当時、新聞などで「目」と誤表記が見られました。「まだら」といえばどうしてものイメージが強いからでしょう。校閲記者としては、固有名詞ではも「まだら」と読むと覚えておかなくてはなりません。

 さて、この別字である。新聞ではかつて数十年にわたり、同じ字のように扱われていたことがあります。1956年、国語審議会は「同音の漢字による書きかえ」を報告。これは当用漢字の使用を円滑にするため、当用漢字表以外の漢字を含む漢語を処理する方法として、「撒水→散水」「日蝕→日食」など表中同音の別の漢字に書き換える語を示したものでした。これらを「代用漢字」と言います。報告に例示されてはいませんでしたが、新聞界で独自に決めた代用漢字に「点→点」があり、新聞紙面で使われてきたのです。

 には「まだら」の意味があるわけですので、妥当な書き換えであるともいえます。ただ、やはり表記としての違和感は拭えず、新聞用語懇談会は1993年に「点」をやめ、「点(はんてん)」と本来の字に読み仮名をつけることに表記を改めました。さらに2001年にはを新聞常用漢字(常用漢字並みに使用できる漢字)とし、「点」を読み仮名なしの表記に変更。2010年、常用漢字表の改定では正式に常用漢字になりました。

 ちなみに、この間の三省堂国語辞典を見ていくと、「点・点」(初~4版)、「点」(5版以降)と、新聞表記の変化を追いかけるように漢字の例示が変わっていました。時代のことばと連動する小型国語辞典のすごさを感じます。

三省堂国語辞典の「はんてん」の例示の変遷

 今後も新聞の漢字表記で変わるものは出てくることでしょう。それがいつになるのか、どの字なのかは分かりません。「同音の漢字による書きかえ」が報告されてから66年。代用漢字と本来の字を見比べていくと、何か気づくことがあるかもしれませんね。私としては「惣菜→総菜」の書き換えが気になります。

≪参考資料≫

円満字二郎『漢字ときあかし辞典』研究社、2012年
金武伸弥『新聞と現代日本語』文春新書、2004年
塩原経央『「国語」の時代―その再生への道筋』ぎょうせい、2004年
『国語審議会答申・建議集』文化庁文化部国語課、2001年
『新聞用語集』日本新聞協会、1996年
『新聞用語集 2007年版』日本新聞協会、2007年
『新聞用語集 追補版』日本新聞協会、2010年
『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』三省堂、2020年

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「斑」を調べよう
漢字ペディアで「班」を調べよう
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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

くまちゃん / PIXTA(ピクスタ)

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