四字熟語難読漢字

四字熟語根掘り葉掘り72:原稿書きは「断鶴続鳧」?

四字熟語根掘り葉掘り72:原稿書きは「断鶴続鳧」?

著者:円満字二郎(フリーライター兼編集者)

 このコラムの分量は、だいたい本文1000文字。インターネットで公開される原稿の場合、見る環境によってレイアウトが変化するので、それ以上に細かく字数を気にすることはありません。

 しかし、紙媒体の場合は違います。印刷されるときの字数・行数は決まっています。「○○字かける○○行分の原稿を書いて下さい」とご注文を頂いたら、それに合わせて執筆することになります。

 私は、もともと出版社で編集者をしていたので、自分で原稿を書くときも、この「○○字かける○○行」が気になります。それにきっちり合わせて書かないと、落ち着かないのです。そして、予定のスペースにぴったり収まるように仕上げては、「へへへ、どんなもんだい!」とひとりで悦に入っていることが、よくあります。

 さて、「断鶴続鳧(だんかくぞくふ)」とは、紀元前数世紀に書かれた中国の古典、『荘子』の次のような一節に由来する四字熟語です。

 「鳧(かも)の脛(すね)は短しと雖(いえど)も、之(これ)を続(つ)がば則(すなわ)ち憂へん。鶴の脛は長しと雖も、之を断たば則ち悲しまん。」

 カモの脚は確かに短いですよね。でも、もし継ぎ足して長くしてあげたら、本人は歩きにくくてきっと困ることでしょう。同様に、いくらツルの脚が途中で折れそうなほど長いからといって、それを切って短くしてあげたら、本人はきっと嘆き悲しむことでしょう。

 『荘子』は、はたからはいかに妙に見えようとも、生まれ持った性質に他人が手を加えようとするのはお節介でしかない、と言いたいのです。ここから、「断鶴続鳧」は、〈生まれ持った性質を無理に変えようとして、かえってダメにしてしまうこと〉を表すようになりました。

 考えてみれば、私の書くような原稿にも、その内容にふさわしい、適切な文字量というものがあるはずです。なのに私は、時にはちょっと足りないから無駄話を付け足したり、あるいはちょっとオーバーしそうだから必要な文句を削ったりして、「○○字かける○○行」のスペースに無理をしてでもぴったり収めようとしているわけです。

 それは、拙稿にも備わっているかもしれないささやかな長所を、かえって損なう行為なのではないでしょうか? それなのに、ぴったり収まったからといって独りほくそえんでいるときては……!

 そう反省はしてみるものの、やっぱり、分量にぴったり合わせたいという欲望は、なかなか抑えることができません。いつの日か、『荘子』の忠告を受け入れて、自由な境地に到達したいものです。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「鳧脛短しといえども之をつがば則ち憂えん」を調べよう
漢字ペディアで「鶴の脛(はぎ)も切るべからず」を調べよう

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≪著者紹介≫

円満字二郎(えんまんじ・じろう)
フリーライター兼編集者。 1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。 著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)、『漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば』(岩波書店)など。
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/

≪記事画像≫

「イラストの里」のイラストを利用して、筆者作成。

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