歴史・文化

「店休日」?それとも「休店日」?~再び二字熟語の語構成を考える~【上】| やっぱり漢字が好き42

「店休日」?それとも「休店日」?~再び二字熟語の語構成を考える~【上】| やっぱり漢字が好き42

著者:戸内俊介(日本大学文理学部教授)
 

 新年度が始まった。環境が変わった方にとっては慌ただしい日々が続いていることであろう。しかし、ひとまずゴールデンウィークまでの辛抱である。今年のゴールデンウィークは、前半の427日~29日が3連休、後半の53日~6日が4連休となっており、大型連休とは言い難いものの、一息つく良い機会にはなるだろう。

 もっとも、カレンダー通りに休めない人も多いと思う。大学の教職員もこれに該当する。大学では、半期の授業時間が定められており、1コマ90分であるとすれば、15回分の授業を確保するためには、祝日にも授業を実施しなければならない。大学生もゴールデンウィークには休めないことが多いのである。

 さてゴールデンウィークとの関連から、今号から3回にわたり、「休み」に関連する二字熟語を取り上げていきたい(やや強引なつなげ方であることは自覚している)。

 先日、図1の張り紙を目にした。一見すると、店の休業を知らせる何の変哲もない掲示である。しかし私はそこに記された「店休日」という表記に、少し違和感を覚えた。

店休日

1(筆写撮影)

 違和感の正体は「店休」の語構成である。何かを休むことを二字熟語で言い表すとき、日本語では「〇休」ではなく、「休〇」という語構成になるのが一般的である。たとえば、「休校、休講、休館、休刊、休業」など。いずれも1文字目の「休」が動詞、2文字目の「校、講、館、刊、業」がその目的語に該当する「動詞+目的語」の構成で、「~を休む、~を休みとする」という意味を表す。これは漢語、すなわち中国語の文法に則った語順である。この点については以前にも少し述べたことがある(やっぱり漢字が好き20「尿禁」?「禁尿」? ~二字熟語の語構成~)。

 これに倣えば、「休店日」となるはずである。しかしインターネットで検索してみると、「店休日」は多数ヒットし、相当に普及した言い方であることがわかる。ただし違和感を持つ人も一定数いらっしゃるようで、「店休」の語構成に疑問を呈するブログも散見された。

 その1つに元読売テレビの道浦俊彦氏による「平成ことば事情」というブログがある。その中に「ことばの話1572『店休日』」(2004130日)と題された記事があり、道浦氏が大阪の阪急百貨店で「店休日」という表記を目にしたことをきっかけに話題が展開される。ちょっと面白いので、以下に一部を引用する。

────────────────────────────────────────────

 「本日定休」「本日定休日」というのは見慣れているけれども「店休日」というのは、普通のようで普通でないのではないか?そうそう、その前日も生協で「店休日」という表示を見たぞ!と思い出して、辞書を引いてみました。『新明解国語辞典』には載っていない。『広辞苑』にも載っていない。最大の国語辞典『日本国語大辞典』にも・・・載っていない。載っていたのは「電休日」(でんきゅうび)だけでした。ちなみに「電休日」というのは「電力の供給を休む日」ということで、戦時中にあったようですね。

(中略)

 しかし、この「店休日」、どう読むのかな、一応確認しようと思って、阪急百貨店に電話してみました。

「すみません、この『店の休日』と書いて、なんと読むんですかねえ?」

「『てんきゅうび』でございます。」

「『てんきゅうじつ』とかは読まないんですか?」

「ええ『てんきゅうじつ』ではちょっとおかしいですから。でも普通は『店のお休みの日は・・・』というような言い方をしますけど。」

「でも『店休日』の読み方は『てんきゅうび』ですか。」

「そうです。」

はっきりと受付のお姉さんが答えてくれました。ありがとう。

────────────────────────────────────────────

 わざわざ電話してまで読み方を確認するあたりに、浦上氏が感じた違和感の強さを読み取れるが、それはともかく、このブログから2004年の段階で「店休日」はすでに定着した言い方であったということがわかる(ただし後段の議論を先取りすると「店休日」は戦前から存在していた。【下】(2025年5月12日掲載予定)を参照)。

 今号はここまでとしたい。次回の【中】では「店休」の語順(語構成)について詳しく検討したい。

次回「やっぱり漢字が好き43」は4月21日(月)公開予定です。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「休」を調べよう

≪おすすめ記事≫

やっぱり漢字が好き18 輸=シュ?/ユ?、洗=セイ?/セン?——「百姓読み」あれこれ(上)—— はこちら
やっぱり漢字が好き20「尿禁」?「禁尿」? ~二字熟語の語構成~ はこちら

≪著者紹介≫

戸内俊介(とのうち・しゅんすけ)
日本大学文理学部教授。1980年北海道函館市生まれ。東京大学大学院博士課程修了、博士(文学)。専門は古代中国の文字と言語。著書に『先秦の機能語の史的発展』(単著、研文出版、2018年、第47回金田一京助博士記念賞受賞)、『入門 中国学の方法』(共著、勉誠出版、2022年、「文字学 街角の漢字の源流を辿って―「風月堂」の「風」はなぜ「凮」か―」を担当)、論文に「殷代漢語の時間介詞“于”の文法化プロセスに関する一考察」(『中国語学』254号、2007年、第9回日本中国語学会奨励賞受賞)、「「不」はなぜ「弗」と発音されるのか―上中古中国語の否定詞「不」「弗」の変遷―」(『漢字文化研究』第11号、2021年、第15回漢検漢字文化研究奨励賞佳作受賞)などがある。

記事を共有する